手に汗にぎる入札への道
実家のマンションで競売にかけられる物件がある、という噂を聞いたのは今年の夏のことでした。私は母とお茶のみ話のついでにそのことを知り「ふうん、競売か」という感じでした。
競売物件は裁判所へ行かなくてもインターネットで見るシステムがあり、8月の札幌地方裁判所の公告をみると確かにその物件が出ていました。
やはり噂は本当だった。
もしかしたらこれはチャンスかも知れない、という思いがふくらみはじめ、だんだんやる気になっていきました。
物件の3点セットと呼ばれる「物件明細書」「現況調査報告書」「評価書」をダウンロードすると、ふだん見慣れた建物の外観写真も見ることができて、何とも複雑な気分になりました。
権利関係は問題なさそうでしたが、管理費等の滞納額が50万円ほどあり、室内の状況もよくありません。
競売で最大の難点というと評価でしょうか。それと、物件を実際に見ることができないことです。おまけに占有屋が居座っている場合もあり得るのだと考えると怖じ気づいてしまいます。
差し押さえられた所有者は、どこかに引っ越していったようで空室の状態でした。この物件は1階だったので、実家に行ったついでに(本当はいけないのですが)通用口から庭にまわって、外から室内を覗いました。
窓越しに見る限り、かなり荒れた様子がわかりました。噂によると所有者とその家族が出て行く前に、腹いせなのか建具をめちゃめちゃにしていったとのことでした。
入札しようかどうしようか迷っていると、両親はやめなさいと言うし、一年前に同じ階で売買取引があったときの価格をきくと予想より高く、競売も甘くないかも知れないと思えてきました。
しかし親と同じマンションを所有するチャンスはこれしかないと思い、入札に参加することにしました。
自分でつけた入札価格はほとんどあてずっぽうで、大した根拠があるわけでもありません。
市場に出ている同等の物件の平米単価から割り出して、内装費や滞納金の支払を考慮すると低い価格になってしまいました。
いよいよ入札期日を迎え、入札書に価格を書き込むときには手に汗をかいてギリギリまで悩みました。住民票と保証金の振込証明とともに入札書を提出したらどっと疲れがおそってきました。
あとは開札を待つだけです。
昨年売買の実績がある不動産会社も入札してくるだろうと予想していた通り、この業者が1件と、同じマンション内に複数の物件をもつ建築会社の社長が私の競合者でした。
結果は前述の業者が落札者となり、建築会社社長が次順位、私は3番手で終わりました。
ほかに入札者がいないということは、この物件をよく知っている人しか参加しなかったことがわかります。落札価格をみると三者の幅はそれぞれ10万円前後で、こぢんまりと小さくまとまって終わったという感じです。
今回私が落札できなかったのは目的があいまいだったからだと思います。
最初は鼻息も荒く調査に乗り出し、落札した後のことを楽観的に考えていましたし、周囲の反対をよそに「安く落とせればラッキーじゃない」くらいの感覚でした。自分で使っても、人に貸してもどちらでもいいというのも入札価格に迷いが出た原因のひとつです。
その点業者は落として売ることを目的で入札していますから、私のようなちゃらんぽらんな入札者よりも多少強く入れてきています。
落札できなくて残念という気持ちもありましたが、不動産競売の流れを自分で体験できて良かったと思います。
保証金は1週間ほどで指定した口座に戻ってきましたので、保証金の振込料と住民票取得費が今回の勉強代となりました。
また機会があったら入札してみるつもりです。
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