今からもう20年以上昔のことになりますが、20代の若手のサラリーマンだった私は、邱永漢氏の著書を読みあさっていました。氏は、金持ちになりたかったら「サラリーマンをやめることです」と何度も力説していました。また、40歳が独立のラストチャンス。「それを過ぎると、頭が固くなってしまい柔軟な思考ができなくなるからです」とも書かれていました。私は、35歳までに独立して、事業を興したいと考えていました。そのためにもまとまったお金を得たかったのです。株は学生時代からバイトで貯めたお金で地味な銘柄を長期に持つというやり方で、そこそこ儲かっていました。もっともこのころは、何を買っても儲かった時代でした。
事業を興したかったのは、サラリーマンでは、先が見えて、おもしろくない気持ちがあったためだと思います。手っ取り早くお金を儲けるために不動産を手に入れたかったのですが、当時は、どんどん価格が上昇していて、これだという物件には出会うことができませんでした。これは、不動産に対する自分の経験や知識、行動力が決定的に不足していたからだと今では理解しています。また、このころは競売で買うなんてことができるなどということは全く知りませんでした。そんなとき日経新聞のマルコーの広告に目がとまりました。頭金5%でマンションのオーナーになれるというものでした。早速、95%借金して新築ワンルーム1軒買ってみました。金利7%の30年ローンを組みました。
1年もしないうちにマルコーの営業マンから「今売れば3割増しで売れる。そのお金で絵画を買わないか」との話がありました。年収300万そこそこだった私が、あっという間に不動産で1年分以上の給料に匹敵する金額を儲けてしまったということで、有頂天になってしまいました。思えばここがバブルの満開でした。中央区円山のマンションが5000万だったのが1億で取引された等という話も聞こえてきました。どう考えても、まだまだあがるぞ、今売るのはバカだと思えたのです。結局売りませんでした。当時は金利が7%程度でした。金利負担が重いので、次は3割以上頭金を作ってマンションを買おうと決心して貯金していました。貯金は絶対に崩さないと決心していたため、マルコーから話のあった絵画の持ち分投資にも、ハワイのコンドにも投資しませんでした。そうこうしているうちにマルコーの株が下がってきました。おかしいと思いつつ、どうせ2、3年で回復していくのだろうと傍観していました。ところがどんどん下がります。ついにマルコーは倒産してしまいました。心配になり、マルコーの支店におじゃまして、この後どうなるのかいろいろと聞いてきました。このときは、(損をしているのですが)登記制度で権利が確保されている不動産のありがたさが身にしみました。また、一つのものを何口かに分けてその権利を購入(絵画の持ち分とか、リゾートマンションの1週間分使用権利など)するというものが、いかに不安定なものなのかを知ることもできました。
このごろ、よく見かける有料老人ホームの一時入居金や入居権利金なるものも、私は危険なにおいを感じます。
ともあれ、手っ取り早く金持ちになりたかったのが、この後、30年にわたって毎月3万円を支払っていく債務を負ってしまったのです。30年後にローンを完済したときは築30年の古く小さなマンションだけが残るのです。
|